就労ビザ「技術・人文知識・国際業務」の要件、不許可事例から学ぶポイント

2021年5月27日

「日本で働くために就労ビザを取得したい」「外国人の方を雇用したいが、自社の業務で就労ビザを取得することはできますか?」など、実際にご相談を受けることがよくあります。

そもそも就労ビザって何?と思う方が多いかと思います。

就労ビザとは、日本における就労を目的とした在留資格の通称です。就労ビザは、医療(医師、看護師など)や教授(大学の教授)など全部で19種類ありますが、その中の代表格である「技術・人文知識・国際業務」についてお伝えします。「技術・人文知識・国際業務」は、活動内容と職種の幅が広く、いわゆる「オフィスワーク」に該当する可能性が高く、多くの外国人の方が取得しています。

技術・人文知識・国際業務のビザの活動要件とは?

入管法別表第1の2に活動内容が定められています。

本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若しくは法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(一の表の教授の項,芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで,企業内転勤の項及び興行の項の下欄に掲げる活動を除く。)

入管法別表第1の2

※出入国管理及び難民認定法別表第一の二から引用(法令原文はこちら)

内容を見ると、難しく感じる方もおられるかと思いますが、下記の3つに分かれます。

① 自然科学の分野に属する技術又は知識を必要とする業務

・主に、工学、理学、農学、薬学など理系科目と関わりのある職種
・具体的には、エンジニア、機械工学、ゲーム開発、建築の設計など

・電機製品の製造を業務内容とする企業との契約に基づき、技術開発業務に従事。 (日本の大学の工学部を卒業)

② 人文科学の分野に属する技術又は知識を必要とする業務

・主に、芸術系を除いた文系科目(社会科学の分野も含まれる)と関わりのある職種
・具体的には、経理、人事、総務、営業、コンサルティングなど

・法律事務所との契約に基づき、弁護士補助業務に従事。(日本の大学の法学部を卒業)

③ 外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務

・具体的には、通訳・翻訳、貿易業務、語学学校の講師、デザイナーなど

・雑貨等輸入・販売会社との契約に基づき、本国との取引業務における通訳・翻訳業務に従事。(本国の大学の経営学部を卒業)

働く会社で、上記の①②③のどれかに該当する業務を行う必要があります。

それに加えて、「我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案して法務省令で定められている基準(上陸基準省令)」に適合することが求められています(上陸基準省令適合性)。

上陸基準省令とは?

上陸基準省令については、下記のように分類することができます。

1.技術カテゴリー 及び 2.人文知識カテゴリー

下記の①若しくは②を満たす必要があります。

① 学歴要件

当該技術若しくは知識に関連する科目を専攻して大学を卒業またはこれと同等以上の教育を受けたこと、または、当該技術又は知識に関連する科目を専攻して日本の専修学校の専門課程を修了し、専門士や高度専門士の称号を取得したこと。

② 実務要件

当該予定する業務について10年以上の実務経験を有すること。

3.国際業務カテゴリー

下記の①及び②を満たす必要があります。

① 業務内容要件

翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝又は海外取引業務、服飾若しくは室内装飾に係るデザイン、商品開発その他これらに類似する業務に従事すること。

② 実務要件

従事しようとする業務に関連する業務について3年以上の実務経験を有すること。
※ただし、大学を卒業した者が翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は、実務経験は不要です。

技術・人文知識・国際業務ビザ要件のポイントと不許可事例

以上の活動要件と上陸基準省令を踏まえて、3つのポイントを不許可の実例とともにご説明します。

① 予定する活動内容が3つのカテゴリーのいずれかに該当すること(在留資格該当性)

「専門的技術的な知識が必要な業務」であるため、工場で箱詰めやライン作業のような単純作業、何度か継続をすれば取得できる業務、学歴や実務経験がなくてもできる業務は該当しません。

教育学部を卒業した者から、弁当の製造・販売業務を行っている企業との契約に基づき現場作業員として採用され、弁当加工工場において弁当の箱詰め作業に従事するとして申請があったが、当該業務は人文科学の分野に属する知識を必要とするものとは認められず、「技術・人文知識・国際業務」の該当性が認められないため不許可となった。

学術的な技術や知識を要する業務が必要とされているところ、弁当加工工場における弁当の箱詰め作業は、単純作業と判断されています。

情報システム工学科を卒業した者から、料理店経営を業務内容とする企業との契約に基づき、月額25万円の報酬を受けて、コンピューターによる会社の会計管理(売上、仕入、経費等)労務管理、顧客管理(予約の受付)に関する業務に従事するとして申請があったが、会計管理及び労務管理については、従業員が12名という会社の規模から、それを主たる活動として行うのに十分な業務量があるとは認められないこと、顧客管理の具体的な内容は電話での予約の受付及び帳簿への書き込みであり、当該業務は自然科学又は人文科学の分野に属する技術又は知識を必要とするものとは認められず、「技術・人文知識・国際業務」のいずれにも当たらないことから不許可となった。

学術的な技術や知識を要する業務が必要とされているところ、電話での予約の受付や帳簿への書き込みは、技術や知識が必要ではないこと、また、学術的な技術や知識を要するための業務量が十分ではないと判断されています。

ホテルにおいて、予約管理、通訳業務を行うフロントスタッフとして採用され、入社当初は、研修の一環として、1年間は、レストランでの配膳業務、客室清掃業務にも従事するとして申請があったが、当該ホテルにおいて過去に同様の理由で採用された外国人が、当初の研修予定を大幅に超え、引き続き在留資格該当性のない、レストランでの配膳業務、客室清掃等に従事していることが判明し不許可となった。

採用当初等に一定の実務研修期間が設けられている場合、この実務研修期間に行う活動のみを捉えれば「技術・人文知識・国際業務」の在留資格に該当しない活動であっても、日本人の大卒社員等に対しても同様に行われる実務研修の一環であること、在留期間中の活動を全体として捉えて、在留期間の大半を占めるようなものではないときは、その相当性を判断した上で当該活動を「技術・人文知識・国際業務」の在留資格内で認めています。ただし、当初の研修予定を大幅に超えて、引き続き業務を行っている場合には、認められず不許可になります。

② それぞれのカテゴリーに要求される学歴や実務経験等を満たしていること

「専門的技術的な知識が必要な業務」を行うためには、大学や専門学校で技術や知識の習得が必要です。大学や専門学校で専攻した科目が従事する業務内容に関連していない場合は、要求される学歴を満たしていないと判断されます。

専門学校の声優学科を卒業した者が、外国人客が多く訪れる本邦のホテルとの契約に基づき、ロビースタッフとして翻訳・通訳業務に従事するとして申請があったが、専攻した科目との関連性が認められず不許可となった。

大学に比べて、専門学校の方がより、専攻科目と従事しようとする業務の関連性を必要とします。理由は以下の通りです。

・専門学校は、職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、または教養の向上を図ることを目的とするとされているとから、専修学校における専攻科目と従事しようとする業務については、相当程度の関連性を必要とします。

・大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とし、また、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するとされており(学校教育法第83条第1項,第2項)、このような教育機関としての大学の性格を踏まえ、大学における専攻科目と、従事しようとする業務の関連性については、柔軟に判断しています。

③ 日本人が従事する場合に受ける報酬と同額以上の報酬を受けること

具体的には、日本人の新卒や中途採用の場合に受ける報酬と同じかそれ以上でないといけません。

工学部を卒業した者から、コンピューター関連サービスを業務内容とする企業との契約に基づき、月額13万5千円の報酬を受けて、エンジニア業務に従事するとして申請があったが、申請人と同時に採用され、同種の業務に従事する新卒の日本人の報酬が月額18万円であることが判明したことから、報酬について日本人と同等額以上であると認められず不許可となった。

上陸許可基準省令において、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」という要件が必要とされています。

技術・人文知識・国際業務ビザ取得で心掛けてほしいこと

「技術・人文知識・国際業務」のビザは、要件をしっかりと満たせば取得できるビザです。しかし、要件を満たしていないにも関わらず、入管へ申請する内容には虚偽の業務内容を記載しビザを取得、あるいは、ブローカーに多額のお金を払いビザを取得する等、偽りや不正の方法で取得する方も中にはいらっしゃいます。

その時にビザが取得できたとしても、後からペナルティを受けることになります。

ビザの取得がゴールではなく、スタートです。その先もビザの更新ができること、安心して働くことができることが大切です。

偽りその他不正の手段で就労ビザを取得した場合には,3年以下の懲役若しくは禁固若しくは3百万円以下の罰金に処し,又はその懲役若しくは禁固若しくは罰金を併科するとしています(入管法第70条第1項2号の2)。

※出入国管理及び難民認定法第70条第一項二号の二はこちらから参照

自分や家族を守るためにも、長く安心して働くためにも「技術・人文知識・国際業務」のビザでやっていいこと、やってはいけないことをしっかりと理解した上で、申請をしてくださいね!

以上になります。就労ビザを検討されている方、就労ビザの要件を満たしているのか不安な方など、当事務所にご連絡くださいね。

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